開発点光 #06 | 「くつ下工房」のものづくり②

 KAIHŌ SOCKSを作る新潟・五泉の「くつ下工房」は、家族5人で営む小さな工場です。


くつ下工房では、職人の上林希久子さんのお父様の代から靴下を作ってきました。かつては、1日に多くの靴下を作っていた時代もありましたが、現在は昔ながらの低速の編み方で、履き心地の良さを追求した靴下作りをしています。

2回に渡り、くつ下工房の上林希久子さんにお話を伺います。

①小さな工場だからこそできる、目が行き届いた靴下作り 9/25公開
②一度履いたら手放せない靴下のヒミツ 10/02公開(完)


②一度履いたら手放せない靴下のヒミツ


前回は、くつ下工房のものづくりの姿勢についてお話を聞きました。
今回はKAIHŌ SOCKSの履き心地を作る工夫を、前回に続き上林希久子さんに伺いました。


KIHON

RELIEFWEAR 鳥羽 由梨子 (以降 R):KIHONのベースとなる靴下を初めて履いた時、
履いているのに履いていないような、不思議なフィット感に驚いたのを覚えています。

この靴下は、上林さんが病気で足がむくむご両親のために作ったのが始まりですよね?

くつ下工房 上林希久子さん(以降 K):
そう。周りから評判だったオリジナルの形を両親から受け継いで、そこに入っていたゴムを抜いて、調整していったの。

R:作られた当時、靴下に「ゴムを入れない」のは、業界の常識にはなかったですよね?ゴムを使わずに、どのように調整していったのですか?
  
K: そうね。ゴムを入れないと単純に締めつけはなくなるけれど、脱げやすくなってしまう。だからゴムの代わりに、裏糸に収縮性のある補強糸を入れて、ゴムが入っていなくても、でもずれ落ちない靴下を作ったの。

ゴムを入れない二重仕立ての履き口部分はすごく調整は難しくって。丈が短すぎると足に食い込むし、長すぎると邪魔になる。父母を実験台にして(笑)、何度も調整したのよ。

R:そうやって、他にはないフィット感の靴下は生まれたのですね…上林さんの作る靴下は、歩きやすさも感じます。

K:うちの工房で作る靴下はどれも、つま先の三角形の部分が普通の靴下より、広くゆるやかに取ってある。普通はつま先が細く作られていて、洗うと編み目が詰まってさらに細くなる。だから、足の指が靴下の中でうまく開けなくて、窮屈に感じるのね。

R:確かに、上林さんの作る靴下はどれも、履いた時に足の指が自由に開きますね。それも大事なポイントかも!歩くときに、足の指がしっかり開いて地面をグリップするような感覚が大事だと、私は本を読んで最近知りました。
  
K:五本指ソックスを履かなくても、足の指が自由に伸ばせる靴下なのよ。

R:なるほど!だから歩きやすく感じるのですね。  


TSŪKI

R:TSŪKIは、編み間違いから始まったんですよね。
  
K:そう。編み間違いと、聞いていたRELIEFWEARのイメージからひらめいて。  
   
R:TSŪKIは、作る上で難しい所ってありますか?

K:うちで作る靴下は、どれも大きくゆったり編んだものを、プレスを掛けて小さく縮めているの。だから伸縮性がよくて、フィット感があるの。通常は、小さく編んだものを、プレスで少し引き延ばしてセットする所が多いのよ。

特にTSŪKIは、他の靴下より収縮率が高くて、寸法を出すのが難しい。洗濯して目が詰まっても、靴下がずれ落ちてこないよう、かかとからつま先までの編み目の数を、かなり細かく調整してあるの
  
R: ずれ落ちてくるのは、編み目の数が関係しているのですね。

K:そうなの。ずれ落ちる靴下は、基本的に足に対して小さい靴下。もちろん、靴との相性や歩き方が原因で、落ちてくる場合もあるけどね。 

R:TSŪKIは冬にもおすすめなんですよね?

K:そうそう。メッシュ編みって、夏の印象があるじゃない?でも、冬は防寒しているから、汗が服や靴の中でこもりやすくなって、汗冷えを起こしがち。メッシュ編みの靴下を履いた上に、ウールみたいに暖かな靴下を重ねると、メッシュ部分が汗を発散させやすくして、空気の層も生んで、必要な熱を奪わないのよ。

R:夏は通気性、冬は保温性と、季節を問わず快適にいられるんですよね。私は、夏は冷房で足が冷えやすいので、足首部分が二重で温かく通気性もあるTSŪKIばかり履いています。寒くなったらインナーソックスとして、また毎日活躍しそうです。

 

SHINSHUKU


R:SHINSHUKUも、初めて履いた時、独特の履き心地でした。足裏のぷくぷくとした凸凹感とゆるりとした履き心地は、家でリラックスしたい時に履きたい靴下だと思いました。
  
K:この編み方自体は、パイナップルやワッフル編みと言われていて、昔からある作り方なの。靴下に使うゴム糸が流通していなかった時代に、編み方の工夫で伸縮させる手法だったのよ。

でも、機械に負担がかかりやすいし、低速でないと編めないし、今は作る工場もほとんどないんじゃないかしら。作り手にとっては、ややこしくて、すごく手間がかかるから。

でも作るのが面倒な靴下の方が、履きごこちが良かったりするのよね~(笑)

R:それは、色々なことに通じますよね。
  
K:この編み方は、表糸も裏糸も1色ごとに調整しながら編んでるのよ! 糸って染色の濃さによって強度が変わるから、その都度変更が必要なの。
 
R:そうだったんですね!手間のかかり方が想像以上で驚きました。そうしてできた独特なポコポコした風合いと伸縮性だからこそ、足を優しく包んでくれるのですね。。。私は1日の疲れを癒したくて、お風呂上がりや寝る前に、これをよく履いています。
  
K: 人によって、求める靴下は違うから、自分にあった靴下を見つけてくださいね。国内の靴下工場は、どこもいい靴下を作っていますから。

R:今日は色々教えて頂き、ありがとうございました!

同じように見える靴下でも、履いてみると心地よさが全く違うことがあります。使っている糸や製法・寸法の出し方や調整など、沢山の見えない工夫の積み重ねが、こうして「手放せなくなる履き心地」になっているのだと分かりました。

この記事を参考にしながら、自分の足に合った靴下を見つけて頂けたら嬉しいです。


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