なにすてた? #03 あたらしい日常料理ふじわら 藤原奈緒さん 前編

仕事に家事に、ひとによっては育児や介護。
忙しく働くわたしたちは、こころも身体も重くなりがち…ですよね?

いつも軽やかで、すこやかなひと。
ときどき出会うそんなひとたちは、「手放し上手」だって思います。

手放すことで気づき、前に進むことがある。
それがこころと身体の養生につながるように思うのです。

さまざまなことを見つめ直すこのご時世。
連載企画「なにすてた?」では、素敵なひとたちのこころの断捨離ものがたりをお聞きしていきます。

前編 「家庭のごはんをおいしく」したかったから

第3回目は、「あたらしい日常料理ふじわら」を主宰する、料理家の藤原奈緒さんです。
「家庭のごはんをおいしく、手軽に。」をテーマに、オリジナルの調味料『ふじわらのおいしいびん詰め』を手がけています。

東京・東小金井で2020年夏まで食堂を開いていた藤原さん。
コロナ禍をきっかけに食堂を一旦お休みし、「心が幸せになった」とInstagramで記されていたのが印象的でした。
東京郊外にあるご自宅にお邪魔し、お話を伺いました。
 

◆小学生がイカ刺し!? 好きな味を作る楽しさ

ー料理を仕事にされるきっかけは?

子どもの頃、ものすごく味覚が鋭かったんです。
お米が変わると毎回気が付くし、納豆はこう混ぜた方がおいしいとか、
おいしさにこだわりのある、ちょっと変わった子どもだったと思います。

うちは母子家庭だったので、母はあまり手の込んだものは作らなかったんですが、
外で忙しく働きながら食事を作ってくれるのに、それがおいしいと思えないことも多々あって。
喜べないことが、子どもながらにストレスだったんでしょうね。

小学生になって、料理を教えてもらってやってみたら、「自分の好きな味を自分で作れる」ことが、すごく楽しかったんです。

今日は何と何の煮物なのか、玄関をくぐるとはっきりわかるような子どもだったそう。

 

「何食べたい?」「イカ刺し!」っていうやりとりが3日続いて。
「そんなに食べたいなら、自分で作りなさい」と母がおろし方を教えてくれたことがあって…。
わたし、大喜びで全部おろしたんです。冷凍庫にあったイカまで解凍しようとして、止められたこともありました。笑

料理を仕事にしたいと思ったのは、大学生の就職活動をしていたころ。
母が苦労した姿を見ていたので、一生続けられる仕事をと思って、上京して大学で教員養成課程を取っていました。

でも、どうしてもそれで生きていく実感を持てなくて、自分をよく観察してみたんです。
そのときに「料理を作って誰かと一緒に食べる」時間が、
暮らしの中で唯一自分が生きている時間だなって気がついて、料理の道に進もうと思いました。
 

◆『おいしいびん詰め』のきっかけ 

ー調味料づくりをなぜ始めようと思ったのですか? 

最初から「家庭のごはんをおいしくすること」がしたかったんです。

ただ料理の仕事を始めた当時は、飲食店で働く以外の選択肢がほとんどなくて…。
自分のやりたいことはこれじゃないんだけど…と思いながらいくつかの飲食店で働いていました。

調味料づくりのきっかけは、長く修業していたお店がどんどん忙しくなって、やってもやっても仕事が終わらなくなった。
せめて提供までの時間を少しでも短くしたい、と始めたのが、味がぱっと決まる調味料を作ること。
自分の仕事を楽にするための苦肉の策だったんですけど、
そのうちに独立したらこれを販売したらいいんじゃないかと思うようになりました。



独立後、料理教室をしながら、びん詰めを販売してみたら、すごく反響をいただいて…
小金井の地域イベントで販売したのに、九州の方から電話で問い合わせが来ることもありました。

自分の “経験”が、びんに詰められた“もの”っていう形になったら、
いままでとは違う広がり方をするんだって実感したんです。
 

◆食堂はいつも葛藤でいっぱいだった 

ー食堂は現在お休み中ですね。

実は、もともと飲食店をやるつもりはなかったんです。
独立後、びん詰めの製造と料理教室ができる場所を探していて。
そのころにお話をいただいたのが、現在の「アトリエテンポ」の空間でした。

駅の高架下で、シェア店舗の一角ということもあって、人が集まる場所にしないともったいないな、
じゃあ契約の6年間は飲食店を頑張って、その間にびん詰めを広めようと思いました。


飲食店をやるなら、食材の使い方や調理法のアイデアなんかを、家庭に持ち帰ってもらえるような食堂にしたい。
そんな気持ちで開いたのですが、夜の営業は経営的にはお酒を出さないと難しいし、そうなると家庭で食べられるようなものは求められない。
目指すものと求められるものの方向が、そもそも逆だということに、いつもストレスを抱えていましたね。


©︎大沼ショージ      いまは食堂は一旦休業。お店では「おいしいびん詰め」を絶賛製造販売中。


その間にびん詰めは販売店に卸したり、少しずつ広まっていって。徐々に製造を増やしていたところに、コロナがやってきた。
いよいよオンラインショップに本腰を入れざるを得なくなって、そうしたらたくさんのオーダーをいただいて、
作っても作っても製造が追いつかなくなったんですね。


もうこれ以上両立するのは難しいと思って、食堂はしばらくお休みすることに決めました。
未練はあったけど、状況が状況ですし、最後に沢山のお客さまに来ていただいて、やりきったと思えたので…。

コロナ禍になって少し早まったという感覚で、食堂は自然に手放せたんです。



中編「ほっとした自分がいた もっと自由になっていい」へ続く