からだせんせい相談室 | 冷えのお悩み 中編

身体のことを正しく知り、必要な養生法を手に入れて、毎日をすこやかに過ごしたい。
そんな思いから、日本身体文化研究所の矢田部英正先生にお話を聞く連載企画。
「からだせんせい相談室」と題し、身体に出るさまざまな症状やお悩みについて相談し、ご指南いただきます。

第2回目は、多くの女性が抱える「冷え」のお悩み。
今回は全身の冷えに悩む、文房具ブランド「水縞」の植木明日子さんをゲストにお迎えしました。
RELIEFWEAR鳥羽由梨子とともに、3回に渡り連載をお届けしています。

◆冷えから生じるお悩みは?対処法は意外にシンプル

前編では冷えのメカニズムについて、教えていただきました。
中編では、それぞれの冷えに関するお悩みや症状を矢田部先生に相談し、対処法を伺っていきます。

鳥羽:植木さんは冷えることで、一番困っていることはどのようなことですか?

植木さん(以下 植木):風邪を引きやすいのが悩みですね。
身体の冷えやすさから寒気がしたり、鼻やのどの痛みが出たり、小さな風邪をしょっちゅう繰り返しています。
どう改善していったら良いですか?

矢田部先生(以下 矢田部):冷えの対策にも繋がりますが、やはり身体の流れを良くしておくのが大事です。
身体の中にたくさん血液や酸素を回して、不要なウィルスや老廃物などを、外に排泄しやすい身体を作っておくこと。
そうすると免疫力も自然と高まってきます。お風呂や温泉に入ったり、運動をするのも効果的です。


もう一方で、風邪を引くことが、身体を正常化していくための反応であるという見方もできます。
日本の伝統医療である整体法などでは、そのような考え方をしている。
熱を出すことで解毒し、身体をゆるませる。
汗をだーっとかいたり、鼻みずや咳が出たりすることで、ウイルスや老廃物を外へ排出する。
風邪の症状は、デトックスするための一つの作用とも言えます。

そういう意味では、植木さんのように、こまめに風邪を引くことは、
身体が敏感に反応して、調整をしているのかも知れません。
風邪の症状を薬で「抑え込む」のでなく、身体の要求に沿って「経過」を観察することが大事です。

植木:風邪に負けた、自分は身体が弱いなと思いがちでした。
自分にはなかった新しい捉え方を教えていただき、少し楽になりました。
鳥羽さんは、暑がりとも言っていましたが、どのようなことに悩みますか?




鳥羽:私の場合は、手足は冷えてしまうのですが、暑がりで汗をかきやすいのも悩みです。
こういった体質や部分冷えの場合は、どのように対処すると良いですか?

矢田部:衣服、水分の摂取、汗の対処法があります。

◆衣服による対処
衣服がひとつのポイントになりますね。
「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」の状態を意識してみましょう。
文字通り、頭の方や上半身は涼しく、腰より下、特にお腹と足首は温めておくこと。
身体の上と下で、温度差を設けておくと必要なところに血液が巡りやすくなります。

全身に厚着をしすぎると、身体の方で温める機能がはたらかなくなってしまいます。
ご自身の身体を観察して、トライ&エラーを繰り返しながら、自分にとってちょうどいい状態を探ってみてください。

こまめな水分摂取
水分不足で身体が枯渇することも冷えの原因となります。
暑がりな人はとくに、冷たいものを飲みたくなるでしょうが、内臓を冷やしてしまうので要注意です。
基礎代謝が低下して、さらに身体が冷えやすくなるからです。
暑い時ほど、温かいお茶や白湯で水分を摂ること。

また気候の不安定な季節はとくに内臓が疲れやすく、水を飲んでも身体が吸収しない、ということがあります。
そういった時には栄養価の高い出汁やスープなどを飲んで、栄養と一緒に水分を摂取するのがおすすめです。


矢田部:
汗の対処法
汗に関しては、緊張で息が浅くなると、汗もかきやすくなります。
特にデスクワークで頭脳労働が多い仕事の方は、「心火逆上(しんかぎゃくじょう)」といわれる状態になりがちです。
すると呼吸と血液が胸から上にしか巡らず、手足が冷えてしまう状態をいいます。
おのずと肩や首に緊張が蓄積されてコリを残します。

鳥羽さんのように上半身が暑いと感じるタイプは、お腹の下まで息を深くすること。
しゃべるスピードも呼吸の深さと関係しています。
ゆっくり話すのを意識してみるのも良いでしょう。

鳥羽:確かに、仕事でパソコンに向かっていると、息が浅くなっている気がします。
頭寒足熱、心火逆上を今日から意識してみたいと思います。

これから秋冬にかけて、特に冷えに悩む時期です。
冷えの症状を緩和したり、さらには根本的に冷えを解消できたらと思っています。
どうしたら良いですか?

矢田部:冷えの原因はさまざまですが、対処法というのは非常にシンプルです。
要するに、流れが滞っている部分に血液を巡らせてあげること。
お風呂やカイロで外部から温めるのも手っ取り早い方法ですが、根本的な改善は、自力で血液を巡らせる力をつけ、「自家発電できる身体」になることですね。



矢田部:その方法は、大きく分けて2種類あります。
1つは一般的に知られている、運動によって手足に血液を巡らせること。
もう1つはあまり知られていませんが、呼吸法を使うこと。

植木:呼吸法で、冷えを改善できるのですか?

矢田部:東洋の養生法の伝統では、呼吸法でほぼ万病が治ると言われることもがあるくらいです。
方法そのものは単純ですが、呼吸は身体全体に深く作用します。
これは自分の身体で長年検証しながら、実感している所です。

呼吸でお腹にたくさん息が入れられるようになると、内臓が活発に動き始めます。
みぞおちもゆるみ、自律神経がよくはたらくようになる。
呼吸の力で内臓を動かし、腹腔の圧力が高められると、
身体の隅々にまで血液を巡らすことができるようになります。

そうすると、気温や気圧が低下する季節でも、多少寒くて乾燥する環境でも、影響を受けづらくなります。
外部環境の変動に左右されない、冷えにくい身体を作ることができるのです。


「冷えのお悩み|後編」へ続く