からだせんせい相談室|冷えのお悩み 後編

身体のことを正しく知り、必要な養生法を手に入れて、毎日をすこやかに過ごしたい。
そんな思いから、日本身体文化研究所の矢田部英正先生にお話を聞く連載企画。
「からだせんせい相談室」と題し、身体に出るさまざまな症状やお悩みについて相談し、ご指南いただきます。

第2回目は、多くの女性が抱える「冷え」のお悩み。
今回は全身の冷えに悩む、文房具ブランド「水縞」の植木明日子さんをゲストにお迎えしました。
RELIEFWEAR鳥羽由梨子とともに、3回に渡り連載をお届けしています。

◆無理なくできる、冷えのセルフケア方法

中編では、冷えに関するお悩みや改善法について伺いました。
後編では、冷え解消のための具体的な実践法をご指南いただきます。

植木さん(以下、植木):
日々身体の状態を、少しでも楽に整えられたらと思うものの、
夜は疲れて、子供と一緒にバタンと眠ってしまうことが多いです。

自分に合った方法でないと、なかなか続かなくて…。
暮らしの中で無理なくできる冷えの解消方法を教えてください。

矢田部先生(以下、矢田部):
前回お伝えしたように、冷えを解消するには、単純に流れが滞っている部分に血液を巡らせてあげることが基本。

今回は2つの方法を、実践してみましょう。

◆足ブラブラ体操

第1段階は、物理的に足を動かし、血液を流していく運動法です。


まず、柱や台などにつかまり、片足で立ちます。
浮いている方の足首を支点に、ブラブラと振り動かしていきます。
慣れてきたら、スピードを上げてみましょう。

30秒くらい振動をかけると、血液が足のほうにザーッと巡っていきます。
足を止めてみるとどうですか?



植木:足先がビリビリしています!

矢田部:ビリビリしたら、血液が巡っている証拠です。
静電気がビリっとくるように、人間の身体も電気を帯びています。
振動をかけると、身体に電気的な作用が発生し、巡りが良くなっていきます。
同時にコリや緊張も取れるので、マッサージよりも有効です。

また足首だけでなく、ひざ、股関節と支点を変えて、振り動かしていきましょう。
そうすると、体幹のあたりまで効いてきます。


矢田部:大事なのは、力をできるだけ抜くこと。
力が入っていると、身体の緊張につながってしまい、逆効果です。
筋肉を使わず、楽にできるポジションを探してみましょう。

植木:早速、足がほんのり温かくなってきました。

矢田部:その他にも「むくみのお悩み編」でお教えした「ストレッチポール バタ足」も、足の冷え解消におすすめです。

◆「自家発電できる身体」を目指す呼吸法

矢田部:第2段階は、呼吸法で身体の内部を動かし、エネルギーを養う方法です。
へそ下3寸(約9cm)には、身体の中心と言われる「丹田」があります。
この部分を意識した丹田呼吸や腹式呼吸は、冷え対策だけでなく、自律神経や内臓への働きかけなど、身体にさまざまな作用があります。

胸、みぞおちの順で上の方から呼吸し、身体をゆるめた後、腹式と丹田呼吸をしていきましょう。

まずは息を吐ききります。
そうすると自然と息が胸のあたりに入ってきます。
両手を胸の部分に置き、胸から息をするイメージで、ゆっくり吐いてみましょう。
2・3回胸式呼吸を繰り返します。



矢田部:次はみぞおちの部分を手当てします。
このあたりが固く緊張していると、しっかり息がお腹に入りません。
みぞおちが柔らかくなるまで、手の熱で温めながら、呼吸をしていきます。



矢田部:それでは位置を少し下げて、お腹の部分に手を当てて、腹式呼吸をしましょう。
おへその辺りから細く長くゆっくり息を吐いていきます。
吐きながら、お腹を膨らませるような感覚で呼吸をしてみましょう。





植木:吐ききるのが難しいですね。先生のようにお腹が膨らまず、力が入ってしまうのですが良いのでしょうか?


矢田部:お腹に力を入れてしまって、大丈夫です。
自然に入ってきた息を、横隔膜を使って、最後に意識でぐっとお腹に押し込むイメージで呼吸をします。
お腹の中に息が入っている心地よさを、まずは感じていただけたらと思います。

最後に、おへそからさらに10cmほど下げた「丹田」の位置に手を当ててみましょう。
腹式呼吸からさらに下ろすように、吐く息を丹田に押し込みます。
続けていくうちに身体が変化していくと、だんだんお腹のふくらむ容量も大きくなっていきます。
難しいという方は、足首を直角に立ててみましょう。下腹部に力が入り、呼吸しやすくなります。
3分~5分ほど続けてみましょう。




矢田部:丹田のあたりには、女性の場合は子宮と卵巣があります。

丹田呼吸で息が深く下ろせるようになると、婦人科系の働きも良くなります。
月経時にお腹に左右差を感じる場合は、下腹部の両側均等に息が入るようにすると、経過がスムーズになります。

呼吸法を終えたら、手を横に置いて、とにかくリラックスしましょう。





矢田部:身体の全体に息が巡らせられるようになると、全身に流れができていきます。

呼吸法を使って、「自家発電できる身体」を目指してみてください。

寝る前に5~10分するのがおすすめです。そのまま寝落ちしてもいいですね。
呼吸法は座ったままでもできます。
特別な時間を取らなくても、仕事や生活の中の合間にできるのでおすすめです。

植木:今日少し実践しただけでも、身体が整っている感覚が得られました。
今回教えていただいた方法なら、無理なく取り入れられそうです。

鳥羽:それってセルフケアする上で、大事ですよね。
私たちのように冷えに悩む方々は、ぜひご参考にしていただけたらと思います。

矢田部先生、今日は貴重なお話をありがとうございました!

 


からだせんせいプロフィール
日本身体文化研究所 矢田部英正先生

身体の歴史を研究する文化史家。武蔵野美術大学講師。
日常的な動作の中に歴史や文化があることを発見し、
自分の身体を上手に使いこなす技術を伝える「身体技法講座」を展開。
個別指導の施術プログラム「整体コース」や、音楽家のためのボディワークも行なっている。
その他、身体を整える椅子や食器を制作する作家でもある。
著書多数_『坐の文明論』晶文社、『たたずまいの美学』中公文庫など。
http://corpus.jp


今回の相談者 プロフィール
水縞 植木明日子さん

文具雑貨ブランド「水縞」をディレクション。
学生時代、建築を学び、2012年よりアトリエ「nombre」を運営。
著書に「水縞とつくる文房具」「大人のイラスト練習帳」絵本「おはぎやまのいちにち」がある。
http://www.nombre.jp


RELIEFWEAR 鳥羽由梨子

身体の不調と手術をきっかけに、身体や衣服について探求し始め、
2020年RELIEFWEARを立ち上げる。
“身につける養生”をテーマに、「養生のための機能服」を開発。
自然な身体の在り方とこころに作用する美しさを大切にしたものづくりをしている。
またWEBメディア『養生通信』を運営し、身体とこころのすこやかさのための“養生”を提案。